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『トラブルに巻き込まれそう』というときは早めの相談が大切です

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弁護士法人 中 村 利 雄 法 律 事 務 所
-NAKAMURA LAW OFFICE-      

リレーコラムCOLUMN

2019年

水と史跡とマラソンと  弁護士 平尾嘉晃               

  2019年2月24日(日)、地元の「そうじゃ吉備路マラソン」のハーフマラソンの部に出場してきました(何とか完走。)。
  総社市長さんによると、今年は2万2000人を超えるエントリーがあり、日本全国で7番目の規模の大会になったそうです。というのも、2018年夏、堤防決壊で水害に見舞われた岡山県倉敷市真備町は、総社市と高梁川を挟んでお隣さんという位置にあります。そこで、今回の大会は、復興支援チャリティーマラソンという様相もありました。各地から、多数ご参加いただき、私からもお礼を申し上げます。

  さて、このマラソン大会は、古代吉備の国の史跡を巡るコースになっており、日本で4番目に大きい造山古墳、五重の塔で有名な備中国分寺などを縫うように走ります。
  また、周辺には、鬼退治で有名な桃太郎のモデルと言われる吉備津彦を祭神とする吉備津神社があり、鳴釜神事や鬼の元となった鬼ノ城などもあります。現在、これらは、海から離れた内陸部にあるため、はて、なんでこんな辺鄙な所に、と思うかもしれません。

  実は、古代吉備や大和朝廷建国の時代は、現在より海面がかなり高く、内陸の方まで海が迫っていました。先ほどの鬼ノ城なども昔は、瀬戸内海を見渡す位置にありました。飛行機や電車や車の無い時代は、交通は水運です。したがって瀬戸内海は交通の大動脈で、瀬戸内海を見渡す場所は、要害の地だったのです。
  瀬戸内海を挟んで反対側の、金毘羅さんも、「こんぴらふねふね」の唄にあるとおり、船乗りからの目印として有名でした。今は内陸にあるため、これがかつては灯台の役目を持っていたと言っても、にわかにはイメージできませんが。

  現在陸地のほとんどがかつて海だったと言えば、大阪の方がはるかに、現在と異なります。南から北に細長く伸びる岬(上町台地)の突端が今の大阪城で、岬の西は大阪湾、そして東は河内湖という広大な湖ないし沼地が広がっている土地というのが古代の大阪でした。岬の突端が急流の瀬となっていることから「難波」「浪速」という地名も生まれました。
  岬の突端は、古くは、浄土真宗が石山本願寺を構え、織田信長がこの地に目を付けて奪取を図り、その後、豊臣秀吉に受け継がれて大阪城が建てられました。まさに、なにわのセヴァストポーリ要塞。時の権力による奪い合いの地でした。
  なぜ、ここにこのような史跡が?これらは、かつての日本は、現在よりもはるかに海面が高く水の多い土地であったことを知って初めて理解できます。

  最後に、奈良にはかつて、巨大な湖「奈良湖」があったというお話をして、終わります。
  瀬戸内を西から東に進んでいくと、そのドン付きが、先程の難波の地です。現在の大阪の大半は、海あるいは湖です。そして、その背後に生駒山系が防波堤のように鎮座し、その奥に広がるのが奈良盆地でした。現在の奈良は海なし県ですが、昔は今よりはるかに海が身近でした。外敵には防壁として生駒山があり、その壁に守られるように広がっていたのが、緑の木々に覆われた盆地と青く水をたたえる奈良湖だったそうです。そのような土地に人々が住み着き、やがて大和王朝として発展しました。
 「奈良湖」の存在は、文献などでははっきりとしたものが残っていませんが、盆地中央部の軟弱な地盤の存在、山の辺の路(かつての湖岸道路)や、そのほか地質学的にほぼ傍証されているようです。

  水と史跡について、このようなことをつらつら考えているうちに、21キロを何とか走り終えました。また、来年も参加しようと思います。

【2019年3月記】


まだ間に合う事業承継  弁護士 宮﨑純一

  昨今、中小企業の事業承継の必要性が叫ばれております。2025年までに、70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人(日本企業全体の3分の1)が後継者未定といわれています。この現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年までの累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があるといわれています。そこで、国も、中小企業の事業承継を支援するために様々な支援策を設け、今後10年で集中して事業承継支援策を実施することとしています。

  一口に事業承継といっても、事業承継にはいろいろなバリエーションがあります。承継の相手方として、親族間承継、従業員承継、第三者承継などがあります。また、事業承継の法的手続として、株式譲渡、事業譲渡、分割・合併などがあります。これらの事業承継のバリエーションを選択して円滑に進めていくためには、法的観点は必要不可欠ですので、弁護士の活用が必要かと思います。

  そして、事業承継は、一朝一夕に実現することは難しいですから、中小企業の経営者・小規模事業者の皆様におかれましては、手遅れにならないように、早めのご準備をお勧めします。
  事業承継、まだ間に合いますので、ぜひご検討ください。

【2019年4月記】


 マイナンバー私論  弁護士 佐藤建

 3年前から交付が始まったマイナンバーカード(個人番号カード)。国が鳴り物入りで始めたのに、普及率はまだ13%と伸び悩んでいるそうです※1

 このカードはその名の通り、マイナンバー(個人番号)が記録されたカードです。ところが、このマイナンバーは、勤め先に伝えたくらいで日常生活では全く使いませんから、それならわざわざマイナンバーカードを持たなくても、前に送られてきた紙のカード(通知カード)で事足ります。顔写真付きのマイナンバーカードは身分証明書としての利用も期待されていましたが※2、顔写真が必要なら運転免許証があるし、顔写真のない健康保険証で大丈夫という場面もまだまだありますから、身分証明書として持とうと思う方も少ないでしょう。マイナンバーカードがあればコンビニで住民票が取れるそうですが※3、住民票なんてそうは必要になりませんし、必要になった時には住民票以外の書類も取ったり提出したりで役所へ行った方が早いこともあるので、コンビニで住民票を取るためにマイナンバーカードを持とうと思う方も少ないでしょう(そう思う方が多ければ、マイナンバーカードのご先祖様である住基カードが普及していたはずです)。
 このように、マイナンバーカードの普及率が伸び悩む理由はただ一つ、「持つ意味がない」ということに尽きますが、その原因はマイナンバーカードに記録されたマイナンバー(個人番号)が十分に利活用されていないことにあります。
 そこで、今回は、マイナンバー私論と題して、マイナンバーの利活用について考えてみました。

 マイナンバーは、住民基本台帳をつなぐネットワークシステムを作った際に一人一人に割り付けた住民票コード※4を変換した番号で、住民票コードを割り振られた個人を特定する番号です※5。つまり、マイナンバーさえあれば、それが誰かを特定できるのです。

 現在、日本では、氏名や生年月日、住所などの情報で個人を特定しています。民事裁判では氏名と住所で※6、刑事裁判では氏名、年齢(生年月日)、職業及び住居で※7裁判の対象となる個人を特定していますが、同姓同名による取り違えの危険を完全に排除することは排除できません※9。それに、住所(住居)や職業は言うに及ばず、氏名も婚姻や養子縁組により変わりますし、生年月日すら変わる可能性があります※8。これらの情報はその変更の経過(履歴)が戸籍や住民票といった公文書に表れるので、これを辿ることで個人の同一性を確認することはできますが、その手間はかかりますし、これが途切れてしまう可能性も否定できません。ここで、個人の特定方法としてマイナンバーが利用できれば、住所や職業はもとより、その氏名や生年月日が変わっても常に個人を特定できますし※10、他人と取り違える危険も完全に排除できます。極論すると、契約書や登録書類、裁判書類にその人のマイナンバーさえ書いてあれば、住所や生年月日はもとより氏名すら書いてなくても、対象となる個人が誰かを間違いなく特定できるのです。

 このように個人を間違いなく特定できるマイナンバーの利用を阻むのが、税務関係など一定の場合を除きマイナンバーを提供するよう要求することを禁じた法の規定です※11。これは、マイナンバー「がデータマッチングのキーとして不当に用いられることで個人の権利利益が侵害されるおそれがあるため、本法においては個人番号の提供を求めることができる場合を限定し」たそうですが※12、いくら個人番号が分かっても、これに対応する住民票等の公的データにアクセスできなければ氏名すら分かりませんので、マイナンバーの利用をここまで厳しく制限する必要があるのか疑問です。目の前にいる人のマイナンバーが分かっても、公的データにアクセスできなければ、その人の氏名や生年月日、住所等は全く分かりませんので(分かることといえば「住民票に登録されている」ことくらいでしょう)、これで「個人の権利利益が侵害されるおそれがある」と言うべきであるかは議論の余地があると思います。公的データへのアクセスを厳格に管理し、マイナンバーとの照合を厳しく制限しさえすれば※13、マイナンバー自体を知られることで不利益や不都合が生ずるわけではない、と言えるのではないでしょうか。

 このように、マイナンバー自体の利用範囲を限定したり、マイナンバーの公表公開を制限したりするのではなく、マイナンバーに対応する氏名や生年月日、住所等の公的データの照合対照を厳正厳格に制限管理することで、マイナンバーの個人特定方法としての利便性、実用性を保ちつつ、個々人のプライバシー等の権利利益を守ることが出来るのではないか、というのが私の考えです。マイナンバーに対応する氏名等の公的データを公開しなければ、マイナンバーが知られても氏名や住所まで知られることにはなりませんし、法的手続をとるときなどどうしてもマイナンバーを知る相手とやりとりをしなければならない場面では、公的データを管理している部署を介して連絡を取り合うことで、氏名や住所を知られることなく確実に連絡を取り合うことができます。

 このような考えに基づくマイナンバーの具体的な運用イメージや、これに即したマイナンバーカードの在り方など、まだまだアイデア(妄想)は膨らみ続けているのですが、とりあえず今回は紙面に限りもありますので、次回をご期待下さい。

※1 http://www.soumu.go.jp/main_content/000588084.pdf(マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(平成30121日現在))。特別区(東京23区)の普及率が他と比べて若干高いのは、官僚の皆さんとそのご家族が交付を受けているからでしょうか。
※2 http://www.soumu.go.jp/main_content/000494789.pdf(マイナンバーカード利活用推進ロードマップ(平成29年3月))
※3 https://www.lg-waps.go.jp/01-00.html(コンビニエンスストア等における証明書等の自動交付)
※4 住民基本台帳法7条13号。平成14年7月25日総務省告示第436号で定めた数式により算出されます。
※5 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律2条5項。個人番号から住民票コードを復号することはできません(同法8条2項3号参照)。
※6 民事訴訟規則2条1項1号。
※7 刑事訴訟規則56条1項。
※8 戸籍法113条により戸籍にある生年月日の記載が訂正されることがあります。
※9 平成23年には埼玉県で、平成27年(2015年)には大阪市で、いずれも税金を滞納していた人と同姓同名で生年月日も同じ別人の財産を差し押さえてしまったことが発覚しています。https://www.sankei.com/west/news/150622/wst1506220078-n1.htmlhttps://www.nikkei.com/article/DGXNASDG17024_X11C11A0CC1000/
10 マイナンバーが漏洩して不正に利用されるおそれがある場合には、マイナンバーが変わることがあります。行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)7条2項。
11 マイナンバー法15条。
12 マイナンバー法逐条解説(https://www.cao.go.jp/bangouseido/pdf/chikujou.pdf)の15条参照。
13 戸籍や年金等の公的データを不正に閲覧した事例は多々あります。マイナンバーの管理よりもこちらの管理の方が急務といえるのではないでしょうか。
戸籍情報の不正閲覧(http://www.moj.go.jp/content/001250976.pdf
年金情報の不正閲覧(https://www.nenkin.go.jp/oshirase/press/20100101.files/1029_01.pdf

【2019年5月記】


傘 ありがとうございました  弁護士 佐藤建

 先日、雨上がりの夜に、タクシーに乗りました。
 急な案件の依頼を受けてまずは状況確認に出向き、さて、これからどのような手を打とうか、と思案しながら事務所へ帰るため、通りかかったタクシーに乗り込みました。
 もう雨は止んでいましたので、最近愛用している緑色(!)の傘をタクシーの足下に置いたのですが、運転手さんとのお喋りで気持ちを切り替えた後、足下の傘を置き去りにしたまま、事務所の前で颯爽とタクシーを降りました。

 傘を忘れた、と気付いたのは、事務所であれこれ手段対策を練った後、さあ帰宅しようと事務所を出た後です。それまでの自分の行動を振り返り、あそこじゃない、ここでもないと思い返して、タクシーに置いてきちゃった、という結論に辿り着きました。タクシーを降りるときにも雨は止んでいましたし、何よりも、タクシーに乗り込むときに抱えていた悩みが、降りるときには実行すべき計画として具体的に見えていましたので、足下の傘が見えていなかったのだと思います。

 去る者は追わず、というし、もとより自分のしでかしたことなので仕方ない、どこのタクシー会社かも分からない、といろいろ理由をつけて諦めていましたが、後日、運転手さんが、緑色の傘を事務所へ届けてくれました。そのとき、私は事務所を不在にしていたのですが、きっと事務所のチケットだったことや降りた場所から事務所を探し当て、わざわざ届けて頂いたのだと思います。

 このように、私は、あのときのタクシーの運転手さんに、事務所まで運んでもらっただけでなく、気持ちを切り替え考えを整理する機会を与えてもらい、さらに忘れた緑色の傘まで届けてもらうというご恩を頂きましたので、ここで改めてお礼を申し上げなければなりません。

 運転手さん、ありがとうございました。

 そして、このご恩を少しでも社会にお返しできるよう、頑張ります。

【2019年6月記】


日本の裏側へ行ってきました  司法書士 桝田美佳子

今年のゴールデンウィークはかつてない(カレンダー上)10連休という大型連休で、GW前から話題になっていました。「10連休」「10連休」とマスコミに気持ちを煽られる一方で、10連休を取得する労働者は4割以下だとか、「10連休が楽しみ」という人の割合も4割以下というアンケート結果もあり、実際にGWが終わってみて「10連休は長すぎる」との感想を持つ方も多かったようです。

そんな大型連休の前に、「働き方改革(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」が今年4月1日から順次施行(項目により適用開始時期が異なるため)されています。
   「働き方改革」とは、簡単に言えば「働く環境を大幅に見直すこと」で、労働者一人一人の能力や事情に応じた柔軟で多様な働き方-ライフワークバランス-の実現を目指すものです。

この法律が制定された背景には、過労死などの長時間労働の問題、生産年齢人口減少による労働力不足問題があり、①時間外労働の上限規制やフレックス制度の導入など、労働時間の短縮と労働条件の改善②正規・非正規雇用の格差解消のために雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)③テレワークや時短勤務などの多様な就業形態の普及を施策としています。

今年4月1日より、年次有給休暇の確実な取得を目的として労働基準法が改正され、年10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対して、年5日以上の年次有給休暇を取得させることが義務づけられました。現状では職場等への配慮等から有給休暇の取得率が低調なため、労働者の意見を尊重したうえで、使用者が時季を指定して有給休暇を取得させる「使用者による時季指定」による取得が新設されました。

さて、私はというと...比較的自由に有給休暇を取っています。今年のGWは、「もうこんなに長く休みを取れることは今後ないだろうから遠く行こう!」と思い、4日間の有給休暇を追加して、日本から一番遠い国、ブラジルに行ってきました。念願のイグアスの滝を訪れ、その圧倒的な存在感を前に、ただただ「すごい」と感嘆し、なかなか立ち去ることができませんでした。飛行機の待ち時間をいれると片道33時間のブラジル、思っていたより遠く感じず、また機会があれば行きたいです。

今回の休暇は、社会人になってから一番長い休暇で「日本不在中に緊急に対応しないといけないことが発生したらどうしよう」との不安もありましたが、不在中も日本にいる事務所のメンバーが、SNSを通じて連絡をしてくれたので、問題なく休みを満喫できました。このように、日本だけでなく世界のどこにいても即時に情報を共有できるインターネット環境により、これからますます就業形態は柔軟化していくのだろうと思いました。

就業規則を見直すことがない企業が多いと思いますが、「働き方改革」が順次施行されていく「いま」、労働者が安心して長く勤務できるように、柔軟で多様な働き方ができるように、見直しをしてみてはどうでしょうか。

【2019年8月記】


 正しく怖がる川の話  弁護士 吉田誠司

20191012日から13日にかけて東日本一帯を襲った台風19号による被害は未曾有のものでした。この原稿を書いている時点で犠牲者79人、71河川が決壊したということです。被害に遭われた方は今も大変な思いをされていると思います。私は20042006年頃、日弁連の公害対策・環境保全委員会の「水部会」という所で河川の調査や研究をしていたことがあります。各地のダムや河川を見に行き、日本の水害の歴史や治水の工夫を勉強しました。「堤防をちゃんと作っておけば決壊は防げたのに」とお思いの方も多いかと思います。しかし治水はそう簡単なものではありません。

例えば堤防は、川の右岸と左岸(上流から下流に向かって右側を右岸、左側を左岸といいます)を同時に作っていかないといけません。先に右岸を高くすれば洪水の時に水は左岸にあふれ、左岸の住民だけが被害に遭います。逆も然り。当たり前のことなのですが、これを実際にやろうとすると大変です。大きく強い堤防を作るために右岸の土地買収ができても左岸の買収がまだならば、工事は待たなければなりません。先に右岸だけ工事をすることができないのです。こうして河川改修計画が出来ていても中々築堤が進まない地域は多くあります。

複数の川が合流してくるところも治水の難所です。京都・大阪でいえば、宇治川・木津川・桂川が合流し淀川になる大山崎と八幡市のあたり。男山と天王山に挟まれて地形が狭くなっていますから、大雨が降るとその上流側に水は溢れます。昭和初期に干拓されて今は久御山の田園地帯になっていますが、そこは昔から「巨椋池」と言われた大湿地帯でした。池というより「湖」と言ってよいほどの規模で、「向島」や「中書島」は当時そこが「島」だったことを示す地名です。豊臣秀吉が堤防を築いて以来、人々は治水に取り組みましたが、もともとは広大な「遊水池」として洪水時に水がたまることにより、淀川の下流側の洪水を抑える機能もあったのでしょう。あえて人の居ない地域に水を溢れさせるというのも治水の知恵です。

川の合流というと、近年の水害では「バックウオーター現象」も有名になりました。大きな川(本川)に合流する支川に起きる現象で、本川の増水により「水の壁」が出来て流れ込むことが出来なくなった支川の水が溢れてしまう現象です。今回の71河川の決壊の多くはこれによるものでした。普段は小川のような気にも留めていない支川が、あっという間に増水し突然危険な存在に変わるのです。2018年の岡山の真備町の大水害もこのバックウオーター現象が原因でした。

 20139月に福知山を襲った台風18号による由良川の水害でも、このバックウオーター現象がありました。大谷川という支川が由良川本川の屈曲部に平時は静かに流れ込んでいるのですが、この大谷川の水が由良川の増水時にバックウオーター現象で溢れたことや、由良川本川の堤防に未完成の場所があったこと等が原因で、複数の地点で水が溢れ、由良川左岸の「石原」「戸田」といった新興住宅地が浸水しました。実はこの地域は福知山市が造成分譲した地域です。市は、この一帯が歴史的にも水害の多発する地域で、水害の危険性があることを知りながら、十分にその情報提供や説明をせずに市民に住宅地を購入させてしまったのです。市が売り出した住宅地だから安心だろうと信じて念願のマイホームを新築した新住民は、大きな被害に遭いました。この件は住民が福知山市を相手に訴訟を起こしており、私もその住民側弁護団の一員です。裁判は近く結審し判決となる見込みです。

自然の猛威自体を避けることは簡単ではなく、日本人は自然を畏敬しながら知恵を絞り水害と闘ってきました。堤防や河川改修などのハード対策だけではなく、危険な場所には住まない(住まわせない)、あるいは危険を危険としてきちんと常日頃から認識して、迅速安全に避難し被害を最小限にする工夫をするということも必要なことです。地球温暖化の影響もあり、気象の「想定外」はもはや言い訳になりません。いかに不都合な事実も、正しく知り、正しく怖がり、正しく避けることが大切だと思います。

【2019年10月記】


ちらりとのぞいたアメリカのあれこれ  弁護士 中村映利子


 平成29年夏より2年間、夫の留学に同道して渡米していましたが、このたび帰国し、本年11月より事務所に復帰しています。その節はご依頼者や関係者の方々にはご迷惑をおかけしましたが、温かく送り出していただきありがとうございました。この場を借りて、改めて御礼申し上げます。

渡米する前は、仕事の現場から離れることへの不安や、言葉の壁への不安もあり、ネガティブな感情もありました。しかし実際に異国の地で過ごした2年間は想像を上回る刺激に富んでおり、すばらしい経験となりました。英語を強制的に学ぶ機会を得たことや、畜産物が安く毎日お肉をたくさん食べられたこと、日本から行きづらい観光地を訪れることができたことなど、渡米してよかった点は多々あるのですが、なによりも良かったと思うのは、アメリカをふんわりと覆う「感性」のようなものに触れられたことでした。

日々の何気ない生活の中で、ふと感じる「あれ?」という違和感、今なぜそう感じたのかを考えてみると、そこには三十数年間日本で生きてきた中で、意識すらしてこなかった「当たり前」とのズレがありました。どちらかというと常識にとらわれない方の人間だと自負してきましたが、まだまだ見えていない世界があることに気づかされ、まるでハシゴを一段のぼったように、自分の視界が開けた感じがしました。

自分自身の備忘も兼ねて、徒然なるままに、いくつかご紹介したいと思います。

1)なんとなく寄付

アメリカの人は、とにかく寄付(募金)をします。アメリカに来て一番最初に「ほほぅ」と思ったのはこれでした。ニュースになるような大金持ちの話はさておき、ごく一般の方の話です。ホームレスの方の空き缶にぽとり、募金箱にぽとり。寄付の定義から外れるかもしれませんが、ストリートパフォーマーにもぽとり。

これはキリスト教精神に裏打ちされたものだという話をどこかで聞いたことがあります。確かに先祖代々遡ればそういうことが要因になっているのかもしれません。しかし今に至っては、人々は寄付をするたび「主イエスキリストが云々…」と意識しているわけではなさそうでした。現地の人に、「なぜ寄付するの?」と尋ねても、「アメリカ人でも皆がするわけではないよ」、「日本人は誰もしないの?」といった調子です。私の違和感は、理解してもらえませんでした。

しかし彼らは今日もどこかでただなんとなく、今ポケットに小銭があったから、そんな気分だったからという理由で、ササッと寄付するのです。私自身は社会学も国際文化論も特に学んだわけでもありませんが、日本ではめったと見ない光景を毎日のように目にするので、国ごとの違いを感じずにはいられませんでした。

特に驚いたのは、親が子どもにお金を渡し、「あの人に渡しておいで」と言って寄付させている光景です。週末の繁華街を歩いていると、たびたび見かける光景でした。日本ではどうでしょう。ホームレスの方が道に座っていたら?むしろ、子どもには近寄らないようにさせる方が多いのではないでしょうか。小銭を握らせ、「ほら、行っておいで」と、そっと子どもの背を押すお父さんの姿は、なんとも新鮮で、素敵に見えました。

社会全体に流れる「何が普通か」という感性は、親から子へ、社会の先輩から後輩へと受け継がれるものだと考えさせられました。日本でも、もし大人がこんな風に寄付をすれば、次世代の子どもたちは寄付をするようになるのかなと思ったりしました。

【2019年11月記】


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